それ将は国の輔なり。輔周なれば、則ち国必ず強く、輔隙あれば、則ち国必ず弱し。故に君の軍に患うる所以のものに、三あり。軍のもって進むべからざるを知らずして、これに進めといい、軍のもって退くべからざるを知らずして、これに退けという。これを軍を縻すという。三軍の事を知らずして三軍の政を同じくすれば、則ち軍士惑う。三軍の権を知らずして三軍の任を同じくすれば、則ち軍士疑う。三軍すでに惑い且つ疑わば、則ち諸侯の難至る。これを軍を乱し勝を引くという。
将軍というのは、君主の補佐役である。補佐役と君主の関係が親密であれば、国は必ず強大となる。逆に、両者の関係に親密さを欠けば、国は弱体化する。
このように、将軍は重要な職責をになっている。それ故、君主がよけいな口出しをすれば、軍を危機に追いこみかねない。それには、次の三つの場合がある。
第一に、進むべきときでないのに進撃を命じ、退くべきときでないのに退却を命じる場合である。これでは、軍の行動に、手かせ足かせをはめるようなものだ。
第二に、軍内部の実情を知りもしないで、軍政に干渉する場合である。これでは、軍内部を混乱におとしいれるだけだ。
第三に、指揮系統を無視して、軍令に干渉する場合である。これでは、軍内部に不信感を植えつけるだけだ。
君主が軍内部に混乱や不信感を与えたとなれば、それに乗じて、すかさず他の諸国が攻めこんでくる。君主のよけいな口出しは、まさに自殺行為にほかならない。
【仕事・職場で】
現場で動く自分の実情をどこまで把握してくれているか、現場で動く自分にどこまで権限移譲してくれるのか、という課題である。
実状を把握できていなければ、的確の目標設定も指示もできるはずがなく、指示された者は反感を覚えるだけである。
権限移譲をするということは、どこまで信用するか、どこまで責任を負わせるかということである。権限移譲の度合いによって、任された人の動ける幅が変わる。最適な権限の範囲をはかることは難しいが、あまりに不十分だと指示通りに動くことしかできなくなる。
★自分の実情を上司や同僚に把握してもらうには、業務の内容・状況・目標など、情報をよく発信し、報告・連絡・相談することである。これが不十分だと、自分がいかに大変なのか、どれだけの余力があるのかが伝わらず、不本意な印象を持たれかねない。
★権限移譲はしないし、最後の責任も持たない上司はいる。注意して関係を保たなくてはならない。有能な上司のもとでは適度な権限移譲があり、成果を出しやすい。無能な上司のもとでは権限移譲がされず、指示以外の身動きがとれない。
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