孫子曰く、およそ師を興すこと十万、出征すること千里なれば、百姓の費、公家の奉、日に千金を費し、内外騒動し、道路に怠り、事を操り得ざる者七十万家。相守ること数年、以って一日の勝を争う。而るに爵禄百金を愛みて敵の情を知らざる者は、不仁の至りなり。人の将にあらざるなり。主の佐にあらざるなり。勝の主にあらざるなり。故に明君賢将の動きて人に勝ち、成功、衆に出づる所以のものは、先知なり。先知は、鬼神に取るべからず。事に象どるべからず、度に験すべからず。必ず人に取りて敵の情を知る者なり。
十万もの大軍を動員して千里のかなたまで遠征すれば、政府ならびに国民は、一日に千金もの戦費を負担しなければならない。こうなると、国中があげて戦争に巻きこまれる。人民は牛馬のように戦争にかり出され、耕作を放棄せざるをえなくなる農家が七十万戸にも達することであろう。
こうして戦争は数年も続く。しかも、最後の勝利はたった一日で決するのである。それなのに、爵禄や金銭を出し惜しんで、敵側の情報収集を怠るのは、バカげた話だ。これでは、将帥として資格がないし、君主の補佐役もつとまらない。また、勝利を収めることもかなうまい。
明君賢将が、戦えば必ず敵を破ってはなばなしい成功を収めるのは、相手に先んじて敵情をさぐり出すからである。しかもかれらは、神に祈ったり、経験にたよったり、星を占ったりして敵情をさぐり出すわけではない。あくまでも人間を使ってさぐり出すのである。

【仕事・職場で】
情報を制する者が勝つ。早く、広く、正確に、客観的事実として、必要な情報を収集することができれば、争う前から勝敗は決している。作業をする前からゴールは見える。
この情報とは、相手の情報に加え、自分の情報はもちろん、一見無関係と思える事象でも日頃から広く知見しておくことである。人は、自分が認知できる範囲でしかものを見聞しないものである。井の中の蛙大海を知らずという言葉は誰でも知っているが、自分がその蛙であると認識できている人は少ない。家庭と職場、趣味の世界が普段触れる社会。これで新しい発想や発見がどれだけできるだろうか。
当たり前ではあるが、人には限界がある。ひとときで吸収できる情報の量やスピードには限界がある。だから、普段から情報収集を心がけて実践することが大切になる。
★作業期間外、論争時以外の常日頃から、よく情報収集に努め、観察し、分析し、消化しておくことが大切である。事が起こってから情報収集に走っても、遅いのである。相手はすでに、情報収集済みである。
★人は置かれた環境、育ってきた環境で形成された認知範囲でものを知見する。経験したことがない世界の事象について、どうやってアクセスすれば良いのか、その方法すら分からないし、その対象を思い浮かべることもできないからである。だからこそ、それを踏まえれば、広く広く知見を広げる努力をすることで、やっと認知範囲のカセの外へ一歩だけ踏み出せるのである。
★権力を持たない人間にとって、情報弱者であることは敗北を意味する。日頃から広く見聞し、過去の歴史から学び、忌み嫌うものからすら吸収すべきである。すべてが教師となり、反面教師となるから、学びの対象とならないものは無い。変えられない過去と今から学び、変えられる未来と自分をひらくべきである。
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