卒を視ること嬰児のごとし、故にこれと深谿に赴くべし。卒を視ること愛子のごとし、故にこれと倶に死すべし。厚くして使うこと能わず、愛して令すること能わず、乱れて治むること能わざれば、譬えば驕子のごとく、用うべからざるなり。
将帥にとって、兵士は赤ん坊と同じようなものである。そうあってこそ、兵士は深い谷底までも行動を共にするのだ。
将帥にとって、兵士は我が子と同じようなものである。そうあってこそ、兵士は喜んで生死を共にしようとするのだ。
しかしながら、部下を厚遇するだけで思いどおりに使えず、可愛がるだけで命令できず、軍規に触れても罰を加えることができなければ、どうなるか。そうなったら、わがまま息子を養っているようなもので、ものの役には立たなくなってしまう。
【仕事・職場で】
大義名分をもって道理を得るのであり、利害の一致をもって能動を得る。しかし、人間だけは心情の掌握によってそれらを凌駕して物事にあたる。前者の一方を成すことは容易だが、前者の双方を成すことは難しい。そして、後者を成すことは最も難しいのだが、最大の能力をひき出す数少ない方法である。人心掌握を求めて様々な学問が発展してきたが、これができれば闘わずして勝利できる。争いを始めてしまっては、人心掌握などできるはずがない。争いは最後の手段として、まずは人心をとどめ、動かし、あわよくば掌握を目指すべきである。
それが叶わないことが確実になったなら、止む無く争い、争うからには勝てる条件を整えるべきなのである。
また、ここでは、職場の腐敗の原因を知ることができる。厚遇するだけ、可愛がるだけ、罰を与えずなぁなぁで済ませる。こんなリーダーや上司のもとでは、部下は役に立たなくなるどころか、組織の害悪と化してしまう。この状態に陥った職場の改善は、一朝一夕では立ち行かないので、組織の存続は危機的と考えるべきである。
★チームで作業をするにあたっては、皆の気持ちが同じ方向を向くことが求められる。個々の能力が優秀でも、気持ちがバラバラでは相乗効果は望めない。
★人心掌握こそ、最高効率のパフォーマンスを生み出す。しかし同時に覚えておかなくてはならない。変えられないのは過去と人、変えられるのは自分と未来。それだけ人心掌握は難しいことであり、正解はないのである。
★誰もが納得できる論功行賞というのは難しいが、せめて私情を挟まない信賞必罰はあって然るべきである。この信賞必罰さえできない上司は、組織を腐敗させる一因となる。
コメント